I N D E X  Vol.58

■地球の財産“生物”の大量絶滅を
  食い止めるために

■ TOP EYE
■ ALLOW ME TO SAY…
■ TRADERS WATCHING
■ NEXT STAGE
■ SPECIAL TOPIC
■ 最新技術レポート
■ NEWS!・環境関連情報
■ SPOT LIGHT





鎌田先生はこんな人…
鎌田 直人 博士(農学)
金沢大学大学院自然科学研究科生命科学専攻 助教授
兼 理学部生物学科自然史講座生態学分野(学部)
兼 大学院自然科学研究科生物科学専攻(博士前期課程)
テニスが好き。岩手県ではダブルスのA級で準優勝、東北大会にも出場したほどの実力の持ち主。あまり夢中になって家庭を顧みず(?)、家族から非難ごうごうの時期もあったそうです。趣味は他に釣りも。「今日できないことは明日もできない」やるべきことは先のばしにしないのが信条。


 加賀百万石の城下町として栄え、今もなお独自の文化が息づく美しいまち金沢。その市街地から5kmほど離れた山の中に、金沢大学角間キャンパスがあります。かつては金沢城跡にあり、お城の大学として親しまれた金沢大学ですが、今は医学部を城跡に残し、文学部、教育学部、法学部、経済学部、理学部、薬学部の6学部が角間キャンパスに移転しています。四方を緑に囲まれた広大なキャンパスをお訪ねし、鎌田助教授にお話を伺いました。

 
地球温暖化がもたらす「ナラ枯れ」

まず金沢大学をご紹介いただけますか。
鎌田:全国の国立大学と同じく、金沢大学も国立大学法人としてのスタートを切り、さまざまな新しい取り組みが始まっています。5年ぐらい前に、東大や京大など一部の国立大学が大学院大学化を行いまして、その時は金沢大学はまだ学部主体の大学だったんですけれども、今年の4月から、大学院主体の大学に移行することになりまして、「教育を重視した研究大学」を標榜しています。特徴としては、理科系が比較的充実していると思います。我々の自然科学研究科ということで言いますと、今、分子生物学や遺伝子といったミクロの分野を重点化している大学が多い中で、生態学、自然史、植物の系統分類といった昔ながらの生物学や環境など、いわゆるマクロの分野にも力を入れているという点で、非常に特徴的な大学ではないかと考えています。
先生はまさにそういう分野の研究をされているんですね。
鎌田:そうですね。私は生態学ですが、環境分野ではかなりスタッフが充実していまして、文部省の21世紀COEプログラムとして「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」というプロジェクトが採択されています。私もそのメンバーとして活動しています。
先生のご研究について教えていただけますか。
鎌田:私はどちらかと言うと森林生態学に近いほうの分野が専門でして、中でも昆虫がひとつの大きな柱になっているんですが、昆虫だけではなくて、植物と昆虫の相互作用であるとか、あるいは、昆虫と菌類の相互作用、また、森林の中の渓流にすむイワナの生態などをメインに研究しています。
今、特に力を入れてやっているのが、最近急激にクローズアップされている「ナラ枯れ」の問題。集団枯死といって、広い範囲でナラが枯れるということが1990年頃から起こっていて、被害が拡大しているという問題です。
実はそれを引き起こしているのが、キクイムシの仲間でカシノナガキクイムシという、体長5ミリほどの小さな虫なんです。彼等は非常に面白い生態を持っていて、キクイムシといいながら、実は木を食べているのではなくて、菌を食べるんです。カシノナガキクイムシがナラの木の中にトンネルを掘って住処にするわけですけれども、そのトンネルの中で菌を栽培してそれをエサにしている。菌にとっては虫によって新しい場所に運んでもらえるというメリットがあって、両者は共生関係なんです。そして、その菌がナラを枯らす病原菌になっているというわけです。それはアンブロシア菌という非常に特殊なグループの菌で、通常は植物に対してそんなに病原性を持っていないんですけれども、問題になっている菌はアンブロシア菌の中でも、世界で唯一生きている植物を枯らすということが明らかにされています。
その虫が大量に発生しているということですか。
鎌田:そうですね。そういうことを我々がいろいろ調べているんですけれども、原因として、ひとつは地球温暖化が関係しているのではないかと考えています。
というのは、今回のように、その虫が入ってくるとあっと言う間に木が枯れてしまうというふうな関係は、長い進化の歴史の中でみても成り立たないんです。あまり強い病原性があると、一時的にはその菌にとって非常に住みごこちがいいんですが、長い目で見ると自分の寄主を少なくしてしまいますから、そういう関係は長続きしない。進化的に不安定な関係なんですね。我々が今仮説を持っているのは、ナラ枯れの虫と菌というのは外来種だろうと。もともと東南アジアなどが原産地ですので、そういうところから輸入した木材についてきたものがたまたま住みついたと思われますが、1980年代の後半から急激に増えたのは、地球温暖化によって気温が高くなって、かつては入ってきても定着できなかったものが、定着できるようになったのではないか。それを示す現象として、標高の低いところ、つまり気温が高いところでだけナラ枯れが起こっているということがあります。


 
虫の生態を知ることが問題解決のひとつのカギ

今回新設された設備は、そのような研究とも関係があるのですか。
鎌田:そうですね。昆虫は変温動物ですから、温度変化に非常に敏感な生物なんです。もっとも顕著なのは、たとえば人間だと生まれてから大人になるまでの期間はだいたい決まっていて、環境によって変わったりしませんが、昆虫の場合、温度によって発育期間が非常にクリティカルに変わってくるわけです。たとえば、10度の気温だと発育に50日かかる昆虫がいるとしますね。それを30度の環境で育てると15日ぐらいで発育する。温度が高くなると反比例的に発育期間が短くなるというような法則があるんです。発育期間もそうですし、そもそも生きていけるかどうかも非常に温度の影響を受けるという特性があります。
今回設置した設備は、5つの部屋でそれぞれ温度、日長、湿度を設定、時間単位、分単位で制御できるというもので、ここで虫を飼育します。
ひとつは温度に対する反応を見ることによって、地球温暖化に対する影響を予測するような研究に非常に有効に役立てることができるということ。もうひとつは昆虫というのは休眠といって、越冬をする必要があるわけです。虫によってそれぞれ決まったステージがあるんですが、ある時点で発育にストップをかけなきゃいけないわけです。いつ発育にストップをかけるかという情報は、虫によって違うんですが、ひとつは温度であり、もうひとつは日長、昼の長さなんです。温度というのは日によって変わりますけれども、日長というのはかなり正確なんですね。曇っていても晴れていてもそんなに変わらない。そうすると多くの虫というのは、日長のほうをメインの情報として、休眠するかしないかというのを決めている、ということが知られています。たとえば外国から何か害虫が入ってきそうだ、という時に、たとえば日本で、日本の金沢あたりで冬を越せるのかどうかといったことを調べるためには、温度に対する反応と、もうひとつは日長、日の長さに対する反応というのを調べる必要があるわけです。湿度は昆虫の病気に対する感染率に関係していますし、今回の設備はそうしたさまざまなことを研究するのに非常に有用だと思います。

▲温度・日長・湿度を設定することで、時間単位・分単位で制御できる実験室



文明と森林の密接な関係

●先生はこうした研究を通して、どんなことを願っておられるのでしょうか。
鎌田:日本はたまたま森林国で、国土の70%ぐらいが森林と比較的恵まれた環境ですが、世界的に見ると、毎年だいたい九州と四国の面積を足したぐらいの面積の森林が消失してるんですね。それは伐採とか山火事とかいろいろな原因があるんですが、どんどん減っていくと、どこかでやはり人類の生活に破たんがくると思うんです。それを食い止める、再生する研究ができたらなと考えていますけどね。
●森が死滅すると人も絶えると言いますね。
鎌田:そうですね。古代文明はすべて、森林を伐採しつくしたことによって滅んだと言われているぐらいなんです。エジプト、メソポタミア、インダス、中国の四大文明は、全部大河の流域で栄えたわけですが、そこは森林地帯でもあったんですね。それが文明によって… もちろん燃料も必要ですし、農耕地も作らなくてはいけないということで、森林がどんどん伐採されていった。それによりいろんなところに破綻が起きた末に滅亡したというふうに言われています。
日本でも奈良、京都の都を作るために関西あたりの森林がかなり伐られていますし、製鉄のための伐採も行われてきました。有名なところでは山口のたたらや中国山地などで盛んでしたが、後に生えてきたのがマツで、そのあたりの山が今、マツクイムシの被害を受けて集団枯死していると。そのように、文明と森林の変遷とは非常に密接に関係しているんです。


 
もともとそこにあった自然を守る

イワナについても研究をされているのですね。
鎌田:イワナをはじめ渓流の魚は、地球温暖化や人間の影響を受けやすい生物なんですね。一番重要なのは、川の魚は別の川に移動することができないこと。海を通らないと別の川には行けないわけですが、海水に適応していない。つまり、ひとつひとつの川にすんでいる魚は、遺伝的に非常に長い時間をかけて固定しているものなんですね。ところが、養殖が行われるようになり、たとえば琵琶湖のアユなどが全国の川に放されました。また、イワナはもともと人間に対する警戒心が非常に強い魚で、人間が与えたエサをなかなか食べないので養殖が難しかったんですが、岩手県の水産試験場が1970年代の前半に、イワナの中のニッコウイワナという系統ではじめて養殖に成功し、全国の河川に放されるようになった。そのようなことが20年ぐらい続いてきて、それぞれの川にもともといた原種がわからなくなるなど、川ごとの遺伝的な多様性が人間の養殖放流によって崩れてしまったわけです。
さらには、温暖化によって水温が上がり、魚たちは冷たい上流へ上流へ追いやられています。しかし川というのは最後は行き止まりになりますから、冷水域に住んでいる魚はどんどん絶滅していくということが予測されています。植物なら種を散布すればいい、昆虫は飛んで移動すればいいわけですが、川魚というのは逃げ場がないわけですから、もう絶滅を待つしかない。そのように、環境の影響をもっとも受けやすい生物なんです。
魚はかわいそうですね。
鎌田:そうですね。じゃあ彼等に対して我々に何ができるかということですが、結局、もともとそこにあった自然を守るということが一番大切なことだと思いますね。

人間と自然が調和しながら共存する… 里山

そうした研究をしておられる立場と私たち生活者とは少し距離があるような気がします。今のようなお話を聞いていると、私たちももっと関心を持たなければと思うのですが。
鎌田:そうですね。それは我々の責任でもあるんですが、市民に自然の大切さ、特に森の大切さを知ってもらうのは非常に重要だと思います。たとえば、同じ研究室の中村教授が、このキャンパスがある角間の山を大学の里山として管理し、子どもたちを集めて植物や動物の勉強をしたり、市民の方にボランティアとして山の管理を手伝っていただく中で、自然の大切さや面白さをわかってもらうという「角間の里山自然学校」という活動をしていますが、こうした地道な活動を広げていくことが大事ですね。
里山というのは非常に大切な役割を持っているのだそうですね。
鎌田:手つかずの自然ではなくて、人間が管理して作りあげたものなんですけれども、人間と自然が調和しながら共存するというひとつの理想的な形なんですね。自然というのは、ほおっておくと原生林に戻っていきますし、過度に利用しすぎると山が荒れて、極端にいうと砂漠化していくわけですが、里山は人間がうまく利用するために森を大切にする、持続的な森林の利用形態なんですね。
昔はまきや炭などを燃料にしていたので、里山は大切なエネルギーの供給源だったわけですけれど、1960年代からガスや石油に変わって、里山が使われなくなってしまった。それによって、里山が荒れるという問題も起こっています。

当たり前の小さな努力が大切

自然を大切にしたいという気持ちはあっても、都会では身近に里山もありませんし、逆に、普段口にするエビが森林破壊に繋がっているなど、知らず知らずに環境破壊に加担していることも多いようです。私たちはいったいどうすればいいのか、先生からメッセージをいただけますか。
鎌田:実際のところ、環境問題は経済問題と密接に関係していて、全体的な解決が非常に難しいんです。環境への配慮が経済活動のブレーキになることも確かで、アメリカが地球温暖化条約を批准しないのはそのためですし、開発途上国にとっては先進国の勝手な言い分と受けとめていて、やはり自分たちの国の経済の発展を目指したいわけです。さらに困ったことに、医療の問題だと誰もが切実に受けとめることができますが、環境問題は本当に深刻にならないと認識されなくて、深刻になった時には元に戻すのが不可能であることが多いという点です。政治的に解決してもらわないといけないこともたくさんありますが、大前提になるのは、ひとりひとりが身近なところから良くしていこうとする努力だと思っています。当たり前のことしか言えないですが、みんなが環境に関心を持って、水を大切にする、洗剤をたくさん使わない、電気をこまめに消すといった小さな努力を実践することが、地球温暖化の防止にもつながるのだと思います。

 

集合写真
▲(株)アメフレック 八尾 所長(写真左)金沢大学大学院自然科学研究科 鎌田 博士(写真右)


概要
大学名 金沢大学 角間キャンパス
所在地 石川県金沢市角間町

 



Copyright.2004. AMEFREC Co., Ltd